個展『-30YEARS』に寄せて


 僕にとって土との出会いは、生まれ育った郷里の能登での生活から始まります。
 幼い頃から、僕は田んぼや畑に連れられて手伝いをさせられていました。
 それが本当に嫌で、母や祖母の仕事姿が楽しそうだと思ったことがありませんでした。
 スイカ畑を作る時の、あの穴掘り作業。最初は柔らかな土も次第に堅くなり、大きな石
 も出てきて、子供の僕にとっては、それはとてつもない重労働でした。土の中にクワを
 入れるたび、ミミズやカエル、名も知らぬ虫たちが無数に這い出してきました。

 中学の時、いつものように畑仕事を手伝っていると、石か焼き物で出来た人形のような
 ものが出てきました。縄文土器の一種で、胸にはオッパイがついていて、すぐに女性の
 人形だと気が付きました。僕はそれを家に持ち帰り、自分の大切な宝物にしていました。
 ところが2年ほどして、役所から僕の家の畑が縄文遺跡の指定区域に入ったという連絡
 を受けました。畑仕事は続けても良いが、遺跡が出た場合はすぐ役所へ届け出なくては
 ならないというのです。オッチョコチョイの僕は、突然何か悪いことでもしているよう
 な気になって、家にあったオッパイのついた土器を、さっそく社会科の先生のところに
 持って行きました。
 「おお、これは珍しいな。」と喜んで土器を受け取った先生は、「手の部分がちょっと
 欠けてるのが残念だ。」とつぶやくと、大事そうにそれを自分の机の引き出しにしまい
 込みました。

 あれから何年経ったでしょうか。
 いろいろなものが変わってしまいました。
 僕はもう畑仕事もしていないし、社会科の先生もすでに亡くなってしまった。
 今回の展覧会で、幼い頃に当たり前のように触れていた土を使ってみようと考えたとき、
 二十数年前のそんな思い出が蘇ってきました。


 土と仲良く会話ができたらいいな・・・・
 そしてあのオッパイ土器はどうしているのかな・・・・

 
                                大黒 弘



    

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