増山士郎は身近な社会的事象をテーマに、辛口のユーモアやエスプリ溢れるアイデアで毎回のように周囲を驚かせる作品やプロジェクトを発表、国内外で広く注目を集めているアーティストです。現在は主たる活動拠点をベルリンに置き国際的に活躍しています。今回の展覧会では、2002年に開催した個展「増山士郎作品集
1996〜2003」に続き、ふたたびミニ回顧展という形式で、2004年以降に増山が様々な機会に発表して来た以下の作品やプロジェクトをまとめてご紹介いたします。
『新宿歌舞伎町プロジェクト』は、性風俗店の立ち並んでいた歌舞伎町の一角にある公園で実際に設置したインスタレーションです。いかがわしい風俗店を連想させる電飾やキャッチコピーに彩られた外見に誘われ、オブジェの胴体に開いた「のぞき穴」をのぞき込めば、そこには別のカメラから撮影された当人自身の「恥ずかしい姿」が見えてしまう、何とも意地悪なトラップです。
『Moving』は、作品運搬用の頑丈な木箱の中にこっそりビデオカメラを仕掛け、これを宅急便で送ることによって、荷物が運搬される過程そのものを記録するプロジェクトです。日常の中で特に気に留めない、いわばブラックボックスとなっているありふれた行為のプロセスを、ここでは文字通り「ブラックボックス」を通して可視的にします。べつに法に触れる行為ではありませんが、その隠し撮りされた映像を眺めていると、本来見てはいけないものを見てしまったようなうしろめたい気分になってきます。
『Parky Party』は、増山曰く「オープニングパーティーのための反社交バー」。参加者はパーテーションで仕切られたボックス席に一人で座り、実際のパーティーからサンプリングされた喧噪をBGMに、外に持ち出せないよう鎖に繋がれたグラスで酒を飲むことを強制されます。この非日常的な体験を通して逆説的に、オープニングパーティーという形だけの業界的セレモニーの空しさが強く意識される仕組みです。なお、3月13日のオープニング・パフォーマンスと最終日28日のクロージング・パフォーマンスでは、実際に会場で増山士郎が参加者を『Parky Parky』でおもてなしいたします。
そして今回の個展で最も大掛かりなインスタレーションとなる『アーティスト難民』は、昨年開催された「第1回所沢ビエンナーレ美術展・引込線」で発表され様々な物議をかもしたプロジェクトの再現です。2008年9月のリーマンショック以来の世界的な不況の波で、増山の所属する韓国のギャラリーも倒産。展覧会もキャンセルされ、仕方なく母国日本でアルバイトをしに帰国すれば、自宅以外に寄る辺のない「難民」のような日常を過ごすことに。この状況を逆手に取った増山は、上記の展覧会の会期中会場に小さなスペースを設置し、昼はそこで眠り、会場が締まると夜勤のアルバイトに出かけ、会場での生活や職探しのドキュメントなどを公開して、アーティストの置かれた厳しい状況を見せるというプロジェクトを行いました。2010年、生活の窮迫があらゆる職種の人間にとって切実な問題と化した現在、もはや他人事として皮肉に笑ってすませることの出来ないプロジェクトです。
以上のように、社会的事象に向けた独特な切り口によるアプローチは、増山士郎の作品やプロジェクトの大きな魅力となっています。個々の制作における緻密な計算や完成度の高さも見逃せません。
今回の増山士郎による現代美術製作所での展覧会は、2002年以来8年ぶり、また東京での個展としても5年ぶりとなります。お忙しいとは存じますが、ぜひともこの機会にご高覧いたければ幸いです。
サンキューアート2010・参加企画
「増山士郎作品集 2004〜2010」
■ 会 期
2009年3月9日(火)
〜28日(日)
月・火 休み
(初日の火曜のみオープン)
※オープニングパーティー
3/13(土)
■ 時 間
12:00〜19:00
(土・日・は18:00迄)
※イベントの開催日は
終了時間が多少延びます
■ 入 場 : 無 料