“Via Crucis”*(1)
古いカトリック教会に行くと必ず、
十数枚のステンド・グラスが空間を囲み、
ある決まったストーリーが描かれています。
それは、イエス・キリストが死刑を宣告されたシーンから始まり、
十字架を担いで運び、磔にされ、やがて復活するまでの場面です。
彼は33才の若さで、この世を去ったらしい。
う−ん、33才か。
今の僕と同じくらいの年齢だな。
西洋美術史の上では、このようなテーマは
教会がスポンサーになって、よく描かれてきました。
大学時代ある仲のいい友人がいまして、
彼の家に遊びに行くと、リビングの壁に油彩で描かれた、
十数枚の“Via Crucis”のシリーズが掛けてありました。
その友達のお父さんは医者で、
昔まだ若い頃田舎に住んでいて、
ある地元の病人の命を助けました。
その人は貧しかったので、現金を支払う代わりに
イエス・キリストの“Via Crucis”シリーズを描き、
置いていったそうです。
死にそこなった彼にとって、“Via Crucis”は
自分の復活そのものを意味していたのでしょう。
その後、それをきっかけにして
その人は画家の道を歩むことになったと聞きました。
それから何十年もたち、その元患者さん*(2)は
ブラジルの“プリミティヴ・アート”*(3)を代表する画家になり、
米国のコレクター達にも人気を得て、
友達の家にあった絵はかなりの価値になりました。
きっと、支払えなかった医療費の何倍にもなったことでしょう。
この話と今回の展覧会はあまり関係がありませんが、
もし自分が来年死刑を宣告され、十字架に掛かることなれば、
誰か今回の展覧会に出す油彩シリーズを受け取り、
その代わり私を助けにきてくれるだろうか?
大岩オスカール幸男
*(1) ラテン語で“十字架の道”
*(2) Jose Antonio da Silva(ジョゼ・アントニオ・ダ・シルヴァ)
*(3) 民族的なアート